時間は規則正しく過ぎていった。
冬休みが終わり、学校が始まる。
エリカにも久しぶりに会った。
会うなり、エリカは顔を歪めて押し黙った。

「…大変なことになったね」

それが、翔太サンのことを言っているのだと嫌でもわかる。
私は頷く。
こんな時はどんな顔をすればいいんだろう。

「わたし、まだ信じらんない。翔太さんがもういないなんて」

帰りに寄ったマックで、エリカはぽつりと言った。
沈痛な顔でうつむいているエリカを見てほっとする。
エリカは素直だ。
かなしい時は、かなしい顔をする。

「たまにヒースのライブ見に行っていたから、翔太さん、私の顔覚えててくれていつも挨拶してくれてたの。
なんか、いつもにこにこしている人だから、あんまり苦労しているように見えなかったけど」

エリカは顔を上げる。

「佑香は何か聞いていたの?」

首を左右に振る。

「そんな、何も」

エリカが何か知っている顔をしているのは、テレビや新聞のせいなのだろう。
少し複雑な心境で、私は俯いて口端を上げる。
自分でもわざとらしい顔だと思う。
紙コップに入った、マックの100円コーヒーを見下ろす。
焦げ茶いろの液体に、自分の顔が映る。

「…みどりさんは、いいお母さんだよ」

エリカがはっとして、私を見る。
その瞬間エリカが何に気付いたか、私にはわかってしまった。
だから、顔を上げられないで、笑う。

「佑香、もしかして―――」

「なぁに?」

顔を上げてエリカを見つめ返す。
何も言わせる気がなかった。
エリカは少したじろぐ。

生まれる沈黙。

「ううん、なんでもない」

「うん」

私は頷いて、後ろめたさから目を伏せた。