翔太サンが死んだ。


テレビの報道は間もなく、他の県で起きた強盗殺人事件に切り替わった。

けれど、事件の詳細を知るには、数日間の報道があれば十分だった。
翔太サンはどんな状況で刺されたか、腹部のどの部分を刺されたのか。死因は出血多量によるショック死。
犯人は50代の男で、以前よりみどりさんのお店に来ていた。
ストーキング行為が3ヶ月以上に及び、みどりさんに息子がいることも知っていた。
犯人はみどりさんに交際を迫ったことがあったが、みどりさんは一度きちんと断っていた、らしい。
プライドを傷つけられた男はストーカーに走った、という筋書き。

また、みどりさんのこともワイドショーや雑誌に取り上げられていた。
夫が亡くなった後、ホステスに転向し、夫の保険金でゴージャスな高級マンションを購入。息子がいるにも関わらず、客の男をとっかえひっかえしながら連れ込んでいたどうしようもない母親だった、という内容。

プチン

聞くに堪えない内容に、思わずリモコンを手にしていた。
報道の途中だったけれど、もう一度電源をつける気にはなれなかった。

(みどりさん、大丈夫かな)

キッチンで格闘しながらシチューを作っていたみどりさんの姿を思い出す。
丁寧ににんじんを切る横顔が優しく微笑んでいた。

『翔太はああ見えて案外カタイのよ。
私がふらふらしているせいね。随分しっかり育っちゃった。』

いつか、そう言っていたみどりさん。
たとえ事実がどうであれ、みどりさんは息子の翔太サンを大切にしていた。
私はそれを知っている。