翔太サンのことは、結局テレビで知った。

何気なくリビングでテレビを見ていると、突然、見慣れたマンションが映った。
あの、高級そうなマンション。

お正月の、気だるい平和な雰囲気には、センセーショナルな内容だったんだろう。
全国版の放送だった。

『昨夜9時ごろ、このマンションで地元H高校にかよう、一人の男子高校生が刺されました。』

「ねえ、これケンイチの学校じゃないの?」

キッチンにいたお母さんの声が響く。
私は答えない。

テレビの画面は次に、H高を映した。
液晶の中のH高は、遠くにある知らない学校に見えた。

「ほら、やっぱりH高だ」

お母さんはキッチンから移動してきてぼやく。

「ケンイチー、あなたの学校の子、ニュースでやっているわよー」

お母さんがケン兄の部屋に向かって言うのが視界の端で見える。

『加害者は逃走しましたが、現場から500M先のコンビニで警察に取り押さえられました。被害者・草野翔太さんは腹部を数カ所刺され重体、病院に運び込まれ』

テレビの画面に、「被害者 草野翔太さん(17)」と表示される。
知っている名前なのに、現実味がない。
バタンとけたたましい音がリビングに響いた。

「佑香!」

視界に突然、ケン兄が現れてテレビの画面が見えなくなる。
テレビの画面は見えなかったけれど、レポーターの声だけ聞こえた。

『―――ましたが、4日の午前5時頃に病院で亡くなり』

ケン兄はすごい剣幕で、テーブルに投げ出されていたリモコンをひったくりテレビを消した。
訪れた沈黙。
ケン兄は何も言わない。
私も何も言わない。
ケン兄は、見たこともないカオをしている。
ぐしゃぐしゃに歪めたカオ。
わからない。
私には、わからない。
ケン兄のそれが、痛みなのか、悲しみなのか、それとももっと別の感情なのか。

私はソファの上で膝を抱えたまま、ケン兄と自分の間の宙を見ていた。
うまく、焦点を合わせられない。

「死んじゃったんだね、翔太サン」

しん、と静まったリビングに、奇妙に自分の声が響く。
ケン兄は私の前でうなだれて、何も言わなかった。