「はい?」

翔太サンはちょっと目を逸らす。何か言いにくいのか、思案顔をしている。

「いや、やっぱり今度」

「…なんですか?」

「いやいや、今度にしよう」

首を傾げると、翔太サンは誤魔化すように私の頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。

「次会う時には多分曲も出来ているし」

驚いて翔太サンを見る。

「期待しています」

ちょっとー、信用してないデショ?と翔太サンは怒る。全然本気じゃないけど。
私は笑ってしまう。

(本当は、気付いているの)

「翔太サン」

私は翔太サンを真っ直ぐ見つめる。
首を傾げる、翔太サン。
ことばが喉まで上がってきたけれど、私は言う代わりに笑った。

「…やっぱり今度にします」

「うわ、ちょっと何、真似すんなー」

そう言って翔太サンは笑う。

「次は正月過ぎてからかなー」

「そうですね」私は頷く。

翔太サンは不意に手を伸ばして私の頬にかかる髪を後ろにのけた。
そして、キスをする。

突然、だったから、私は目を閉じるのが遅れた。
驚きを隠せないまま、翔太サンを見つめる。
翔太サンは微笑んでいた。
いつもの、アイスブルーの瞳で。

「じゃあね。また来年」

おやすみ、と言って翔太サンが手を振る。

「おやすみなさい」

私は言葉に押されるように踵を返し、歩く。
一度振り返ると翔太サンは歩道橋の真ん中にまだいて、私に気付いて手を振った。私も手を振る。
私が見えると翔太サンは寒い中、ずっとその場にいそうだったから、足早に歩く。

私はひどく夢見心地で、ひたすらしあわせな気持ちで、
この日翔太サンと別れた。