夜道を二人で歩く。

いくつもの車のヘッドライトが行き来している。
外はかなり冷えていて、先を歩く薄着の翔太サンに早く帰るように言うけれど、翔太サンは聞く耳を持たない。

「寒くないんですかー?」

車の音がうるさくて、思いの外大きな声になる。
翔太サンが振り返って、いつものにこにこした顔で、

「寒いよー、ユカちゃんあっためてー」

と言う。

「はいはい。」

私の答えは相変わらず素っ気ない。
というか、OKしたらどうするんだろ、この人。

「じゃあ、ほら」

すっと目の前に手を出される。
私はその手を見て、顔を上げて翔太サンを見る。
どういう意味?
翔太サンは微笑んだ。
いつもの悪戯っぽい笑顔じゃなくて、少し悲しげな目をしている。

「手、つなごう。あったかいから」

え?と聞き返す。
よく分からないうちに、翔太サンは私の手を取り、勝手に手をつないでしまう。
ずんずんと前に進む翔太サンの足並みに、慌てて合わせて歩く。

「しょ、翔太サン。――-翔太サン!」

2回目名前を呼んだとき、思わず大きな声になってしまった。
翔太サンは振り返る。

「うん?」

私は、黙ってしまった。
ことばが出てこない。
こんな風に、手をつないでこんな大きな通りを歩いたら。

「…いいんですか?」

遠回しなことばになるのは、こわいからだ。
こわい。
私は本当はどうしようもなく臆病だ。
こわくて、遠回しじゃないと聞けない。

翔太サンは、じっと私を見た。
いつもの人懐っこいカオではなく、あの時折見せるひどく優しい微笑みでもない―――真顔だ。

「うん。いいの」

小さな声だった。
翔太サンはすぐに前に向き直り、歩き出してしまったから、どんな顔をして言ったのか、わからなかった。

どうして、
いきなり、
だって、
いまさら、

私は困惑した。
翔太サンが何を考えてそう言ったのか、わからない。

だって、
だって私たちは

(お互い、利用しているだけでしょう?)