シチューはとても美味しかった。
家で食べる市販のルーじゃないのは食べたらすぐわかった。
野菜の甘みがじんわり舌に広がって、身体が心からあたたまる、そんなシチュー。

ごはんを食べ終わった後は、翔太サンの部屋に行ってベッドの脇に二人で肩をくっつけて座った。
不思議とセックスをする雰囲気にはならず、私は翔太サンの肩に頭を置いて目を閉じた。
翔太サンはギターを抱えて何かのメロディを弾いている。
ゆっくり一つひとつの弦をはじいて、音が室内に響く。
このメロディをどこかで聞いたな、と思う。
どこだったろう。

ああ、そうだ。

思い出す。
あの日、はじめて翔太サンと寝たときに翔太サンが弾いていた。
キラキラ光っていた、やさしい朝。
翔太サンの気配で目が覚めたんだ。

ふとしあわせな気持ちで目を開くと、覗き込むように私を見ている翔太サンと目が合った。

「寝ちゃったのかと思った。」

翔太サンが笑う。

「ちょっとうとうとしてました。」

私も笑う。
もう一度目が合って、私たちはキスをする。

夢見心地だった。
ちょっと前の、翔太サンに会う前までの記憶が、はるか遠いお話に思えるくらい。
あの頃の、何となくあった不安はどこへ行ったんだろう。
あの頃の、引きつったような、どこかかみ合わない、毎日に私はおびえていたのかもしれない。


そのまま寄り添っていたら9時を過ぎてしまった。
おうちに帰らなくちゃいけない。
私も翔太サンも上着を羽織って外に出た。