「ちょっと待って!それナシ!今の反則!」

翔太サンの叫び声が部屋に響く。
私と翔太サンの手にはゲームのコントローラー。
積み上がったぷよぷよがテレビ画面半分を埋め尽くしている。
私はこらえきれずに吹き出してしまう。

「翔太サン、弱すぎ」

声に出して言うと余計翔太サンが傷ついた顔をするので、もっと笑いが止まらない。

クリスマスも終わって、街中はそそくさとお正月に模様替えをして雰囲気が変わった。
そして、それとほぼ同時に冬休みがやってくる。

今日は終業式だった。

エリカに「また来年」と言って休み前の最後の学校をあとにした。
学校は早い時間に終わったから、制服姿の高校生たちが街に溢れている。
活気のある高校生たちの間を足早にすり抜けて、草野家に来たのだ。

翔太サンはバイトがないから、こんな早い時間から平日に会えるのははじめてかもしれない。
でも私と翔太サンがしているのはテレビゲーム。
色気なんて全然ない。

勝負は今57回目。
私が52勝で圧勝しているのに、翔太サンはめげない。

ずっとゲームをしていてもよかったんだけど、
63回目の勝負で翔太サンが勝って、ゲームをやめた。
時計が18時半を指そうとしている。

「サラダ作ってご飯にしましょう」

「わーい!ユカちゃんの手料理ー」

翔太サンは両手バンザイをする。

「そんな手間のかかったサラダじゃないですよ」

期待されても困る。

「オレは手間かかってなくても作らないもん」

翔太サンは無駄に威張る。
絶対威張るところを間違えている。

リビングに降りると、シチューのおいしそうないいにおいがした。
ダイニングのコンロには黄色のかわいい鍋。
みどりさんが出勤前にシチューを作っていったのだ。

「何か手伝う?」

私は迷って、

「すぐできるから、待っていてください」

と言った。