ごほっ。

思い切りむせた。

「何、いきなり」

まだ、げほげほむせたまま、眉間に皺を寄せてお母さんを睨む。

「最近、帰りが遅いから、もしかしたらと思ってねえ」

「…そんなんじゃないよ」

きっと何か聞こうとしているんだろうとは思っていたけれど、まさかそうくるとは。

「そう。彼氏ができたなら、どんな人か聞こうと思っていたのに」

残念、とお母さんは呟く。
それ以上に深く追及されるような気配はなく、ほっとする。
昔だったら違った。
少しでも帰りが遅くなると、誰と何をしていたか、どうして遅くなったかをしつこく聞かれるんだった。
お母さんはいつも「心配だから当たり前でしょう」と言う。

私はそれが嫌だった。

今もまだ、私はお母さんと二人きりになるのに慣れていない。
何を聞かれるんだろう、何を怒られるんだろう。
そう思うと身体が固まってしまう。

お母さんは変わった。

分かっていたことだけれど、改めて思う。

(私だけなのかも)

お母さんが変わったことはいいこと。
でも―――

ざらざらした感触の何かが、私の中に残ったままだ。

私はまだ、忘れられないでいる。