ケン兄がはっとする。
私はそれをとても冷静に見た。
冷静に見て、ちいさくため息をつく。

お兄ちゃん、って心の中で呼びかける。

お兄ちゃん、そんなの当たり前だよ。

「血、つながっていないから」

さらりと私が答えた。

私たちは似ていない。
それは、血がつながっていないから。
血がつながっていないのは、ケン兄はお父さんの、私は母の連れ子だから。
ただ、それだけのこと。
それだけのことなのに、ケン兄はいつも同じ、はっとした顔になる。
もう、お父さんとお母さんが再婚して何年も経つのに。

本当はわかっている。
ケン兄がそういう顔をするのは、私に気を遣っているからだ。
私が傷つくんじゃないかと思っている。

お兄ちゃん、と私はまた心の中で呼びかける。

私、そんなにセンサイじゃないよ。

二人の結婚は良かったと思っている。
だから、私たち兄妹の血がつながっていないことなんて些末だ。
それを後ろめたいと思ったことは一度もない。

私とケン兄のやりとりを見て、ショウタさんは少し困ったような顔をした。

「余計な心配だよ、ケン兄もショウタさんも。
私は全く気にしていないんだから、心配しても損だよ。」

必要以上にからっとした口調で言うと、「おや」と言わんばかりにショウタさんが片方の眉を上げた。

「ふぅん」

ショウタさんは何かを勝手に納得しているみたいだった。

そして、笑う。

今までのように愛想を振りまくようなのとは違って、ふっと気をゆるませたように、ごく自然に目を細めて微笑む。

私は少しびっくりして、その顔に見とれてしまった。

まるで別人。

不意に、月夜に聴いたかすれた声の歌が頭の中で響く。

(もの悲しい、外国のロックバンドの)

あの歌みたいだ、と思った。