(ああ、やっぱり)

そういうふうに誤解されちゃうんだろうな、と思う。
でも私たちは外で会ったことはほとんどないし、告白するとか、手をつなぐとか、そういう一般的な恋人の過程が一切ない。

「違います」

はっきり答える。
みどりさんは、驚くわけでもなく、不審そうな顔をするわけでもなく

「ふぅん?」

とキラキラした笑顔で相づちを打っただけで、私は少し拍子抜けした。
もっと根掘り葉掘り聞かれるかもしれない、と身構えていたからだ。

「どうしてそう思ったんですか?」

逆に興味がわいて聞いてみる。

「うーん、、そうねえ。あの子がうちに連れてきた、はじめての女の子だから、かな」

思わず「え?」と聞き返してしまう。

「意外?」

私が素直に頷いてしまい「しまった」と思っているのを横目に、みどりさんはクスクス笑った。

「翔太はああ見えて案外カタイのよ。
私がふらふらしているせいね。随分しっかり育っちゃった。
私もケータ…あ、ダンナね。ケータがいる時は私もそれなりにお母さんしていたんだけど、いなくなっちゃってからは迷惑かけ放題」

駄目な母親よねえ、と言ってみどりさんは両手で抱える綺麗なオレンジ色した紅茶に視線を落とした。

「さて」

みどりさんは壁の時計を見て立ち上がった。
時計の針は5時を指している。

「そろそろお仕事に行こうかな」

うーん、と両手を天井に伸ばしてみどりさんは大きな「のび」をする。
小さなバッグを持って仕事に行くみどりさんを玄関まで見送った。
黒いロングブーツを履いて、ドアを開くときみどりさんは何か思い出したらしく、振り返る。

「そうだ。私もうすぐお給料入るから、ユカちゃんにいいものプレゼントするね」

びっくりしている私に、みどりさんは「楽しみにしててね」と言う。

「あ、もう一つ」

にこっとみどりさんは極上の笑顔で言った。

「避妊はちゃんとしようね~」

バタン。

みどりさんが去った後のドアを穴があくほど見つめる。
ものすごいことをさらっと言われてしまった。

(私たちのどこからどこまで知っているんだろう)

超能力者?

とバカみたいなことを思ってしまった。