リビングに行くとテレビがついていた。
毎朝見ているニュースのチャンネルが映っている。
リビングのテーブルには、トースト、目玉焼き、サラダとコーヒーが並んでいた。
すべて一人分。
「一緒に食べよう」と翔太サンは言う。
私たちはきのうの夜と同じように一緒にソファに掛けて朝ごはんを食べた。

「さっき弾いていたの、なんて曲ですか?」

翔太サンは私を一瞥して、

「うん?テキトウに弾いていただけだよ」

と、こともなげに答えた。

「朝起きたら思いついちゃったんだよねー」

翔太サンはにこにこしている。
私は「はあ」と気の抜けた返事をする。
朝起きて思いつくものなのか?

「キレイな音だな、と思って」

翔太サンはふふっと笑った。

「うん。ユカちゃんのおかげだね。
オレもちょっといい出来だと思うから、ちゃんと作ってみようかな」

私のおかげ?
できたら聴いてね、と言われて私は半分のトーストをかじりながら頷いた。

ご飯を食べ終わると、翔太サンは部屋からギターと鞄を持ってきた。
私たちはそろって玄関で靴を履く。
そういえばテレビがついたままだったことを思い出して言うと、翔太サンは「つけといていいの」と答えた。

「じゃあ行きますか」

私は頷く。
翔太サンはドアを開け、家の中に向かって

「行ってきます」

と心なしか大きな声で言った。
私は少しびっくりして翔太サンを見る。

「誰かいたんですか?」

「ババアが寝てた」

えええ?

全く気づかなかった。

「でも『行ってきます』は誰もいなくても言うっての。草野家のルール」

OK?と翔太サンは言う。
いや、うん、まあ、そうじゃなくて。

街の大きな通りに出る1本前の十字路で私たちは別れた。
学校の方向も違うし、人に見られる可能性が高い。

手をあげて「またね」と翔太サンは言った。

“またね”

私は笑う。
「また」と同じように手を振った。