「いつ見ても思うんだけど、この家かっこつけすぎだよねー。
引っ越してきた時びびったもん。住み始めたの小学生だったけど、落ち着かなかねーの。
今やっと少し慣れたけど」

確かに住むには落ち着かなさそうだ。
カップラーメンを食べながら、翔太サンの横顔を隣でこっそり盗み見る。
よく知った顔なのに、ときどき別人みたいに大人びていてドキっとする。

「ま、文句言える立場じゃないけどねー。息子ってだけでタダで家住んで飯食って学校行っているわけだし」

唐突に翔太サンはこっちを見た。
で、にっと笑う。

「将来、庭付き一戸建ての家に家族と住むのがオレの夢ー」

いいでしょー?と翔太サンは言う。
茶化しているの分かっていたけど、私もつられて笑う。

「そうだ、プリンあるよー」

翔太サンはソファから立ち上がって対面キッチンへ向かう。
隣にあった空気が不意に消える。

(あれ?)

途端に自分の中でくるくる回り出す。
くるくるくるくる。
翔太サンが隣りに戻ってきて、一緒に一個のプリンを食べてても止まらない。

「なんでスプーン一つしかないんですか」

「洗うの面倒じゃーん」

ていう軽い会話をしていても。
続いている。
不安に似た落ち着かない気持ち。

(翔太サン)

(翔太サン、翔太サン)

気付いたらぼたぼたと涙が落ちていた。

「ユカちゃん?」

翔太サンはプリンのカップを持ったまま、ぎょっとした顔をする。

「え、何どうしたの。そんなに一緒のスプーン嫌だった?」

思わず吹き出して笑ってしまう。

「違います」

翔太サンは困り顔で少し考えた後、頭をなでてくれた。
その手に安心する。
原因不明の涙は止まらないけれど、さっきまでくるくる回っていた気持ちが少しずつ速度を落としていく。

「翔太サンの手、安心する」

「そう?」と、素っ気なく翔太サンは答えたけれど、無言で手を出した。
私はそれに甘えて手をのせる。
泣き止むまで何も話さずにいたけど、気まずいことはなかった。
ただひたすら安心して、私は翔太サンの隣りにいた。

「そろそろ部屋に行く?」

翔太サンがそう言ったのは、私が泣き止んでまもなくのことだった。