再び、背を向けて翔太サンは歩き出す。

止まっていた喧噪が、堰切ったように溢れてくる。
車のライトが幾つも流れていった。
翔太サンはぽつりぽつりと、ここまで来た経緯を話してくれた。

ケン兄からバイト中に電話があったらしい。
電話越しのケン兄がめずらしく動転していたから、よく話を聞くと家に鞄も財布もあるという。
それで翔太サンはわざわざバイトを切り上げて、私を探しに来てくれたということだった。

「ごめんなさい」

さすがにいたたまれなくなって私は謝った。
たぶん、ケン兄も凄く心配してくれたんだろう。

「ねぇ」

翔太サンが振り返る。
もう歓楽街を抜けて、街中にある公園まで来ていた。
夜の公園は昼とは違って物静かだ。

「おなか空いたよね」

気の抜けるような一言に、がっくりと力が抜けた。
私、謝ったんですけど。翔太サン。

「ね」とマイペースに翔太サンは同意を求める。

「はぁ、まぁ」

確かに、おなかは空いたけども。

「ねぇ」

今度はなんだ。
なおざりな気持ちで「はい?」と聞き返す。

「何かあったの?家で」

息を止める。

「何も」

アイスグレーの目が私を見ている。
何もかも見透かしたようなそんな目で。
嘘をついてもすぐバレてしまう気がする。

「私が、私が勝手に1人でわけわかんなくなってっただけで。
別に、家はいつも通りです」

(いつも通り)

心の中で反芻する。

ふぅん、と相槌を打ち、

「まあ、あるよね。そんなことも」

と思いの外あっさり翔太サンは言った。
そのあっさりした答えに私はほっと胸を撫で下ろす。
やさしいな、と思う。
適度に放って置いてくれる。
興味本位に身を乗り出して根掘り葉掘り聞くのではない、そういうやさしさ。
翔太サンはやさしい。ケン兄も。
2人のやさしさは違うものだけれど。
自分のことしか考えられない、自分の心の狭さに辟易してしまう。

「で、今日どうするの?」

その質問に、私はぼんやり顔を上げた。