びっくりした。

慌てて身体を離して、正面から翔太サンを見る。
羽織っただけの学ランと、出しっぱなしのシャツの裾。
背中にギターはないし、服も髪も心なしか乱れていた。

「はい。翔太です」

かしこまって翔太サンは答える。
声はおどけているけれど、どこか硬質だ。

「さて、帰ろうか。ユカちゃん」

ぐいっと手を引っ張られる。
手をつながれたままなのと、手を握る力が予想以上に強いことに驚く。
翔太サンの背中を見るとピリピリしているオーラが見えそうだ。

「翔太サン」

「うん?」

翔太サンは振り返らない。
困ってしまった。
こういうのははじめてだ。

「怒って、ます?」

すたすた歩いていた足が急に止まったから、私は危うく翔太サンの背中に顔面をぶつけそうになる。
振り返った翔太サンは憮然として、

「うん、かなり」

と短く答えた。
「かなり」と言われて途惑う。
翔太サンは私を一瞥し、少し考え込んだ。

「別に、夜は外を出歩くなとか、夜遊びするなとは言わないし、言える立場じゃないけど」

再び、翔太サンは私を見る。

「いつものしっかりしたユカちゃんならともかく、今日みたいにフラフラしていたら幾ら知っている場所でも危ないんだよ?」

言葉が途切れた。
不意に、車道を横切るタクシーのライトが目に入る。

「フラフラ、してましたか私」

「うん。さっきも声掛けられていたでしょ?」

見られていたのか。
だからってどうっていうわけでもないけど。

「丁度その時ユカちゃん見つけた時で、俺だいぶ後ろの方にいたから、着いていったらどうしようって思った」

「そんな、子どもじゃないですよ」

「いくら何でも」と続けようとしたけれど翔太サンに睨まれて声をなくしてしまった。

「危なっかしくてハラハラしてた」

ため息をつくような声に、胸が詰まる。
翔太サンの手が汗ばんでいた。