キラキラ光るネオンの中に、いつの間にか居た。

PM 8:00

腕時計の針が指している時間。
人がごった返している。
大半がサラリーマン。大学生らしい、私服姿の男女。
化粧が濃くて髪を高くまとめた女の人たちや、黒いスーツを着たガラの悪そうな男の人たち。
黄色い声や酔っ払いが大声で喚く声、人の靴音、けたたましい音楽が、全部ごっちゃに混ざってノイズになっている。

走り疲れて、私はとぼとぼと歩くしかなかった。
家に帰る気にはなれない。
だからと言って行ける場所なんてない。

高校生がいてもおかしくないショッピングビル街はもう回ってしまった。
手ぶらで出てきてしまったことを今さら後悔している。
端から見たらきっと不審な女子高生なんだろう。
だから本屋もCDショップも雑貨屋も入ったけれど時間を潰すことが出来ず、すぐに店を出てしまった。

そうやって、導かれるように目に痛いくらいこうこうと光るネオンの街に私は足を踏み入れた。
制服姿の女がいるのはさすがにめずらしいみたいで、通りすがるサラリーマンが何人かちらちらと私を見て行く。
中には声をかける人すらいる。

せめて、ちょっとくらいお金を持ってきたら良かった。

そう思っても後の祭りだ。
鍵も財布も鞄の中にある。

喉が渇いた。
おなかも空いた。

―――いつまでも、こんな事してられない。

そんなこと分かっている。分かっているけれど、歩くのを止められない。
止めたらそこで終わる。
短い、短い逃避行。

その時、ガクンと強い力で後ろに手を引っ張られた。

「!」

バランスを崩してそのまま後ろに倒れそうになり、慌てて振り返ろうとすると何かに身体が当たる。

「見ぃーつけた!」

知った声が、頭の上で響いた。
ゆっくり顔を上げると、頬に金色の痛んだ髪が刺さる。

「翔太サン…?」

当たったのは、翔太サンの身体だった。
そこにいたのは見知った顔。
けれど、いつもの間延びした声とは裏腹に、どこか切実そうに眉をひそめた翔太サンだった。