最近、やたらと夢を見る。
昔よく見ていた夢だ。


けたたましい、食器の割れる音。
男の怒鳴り声、
耳をつんざく、女の金切り声。

(おとうさんとおかあさんがまたけんかしてる)

いつもその騒音から逃げるように、自分の部屋で布団を頭までかぶって耳をふさいでいた。
そんな努力もむなしく、耳に音が残っている。

バシ。

何か、鈍い音がした。
悲鳴がして、不意に家の中が静かになる。
不気味な静けさに、私は布団から恐る恐る顔を出す。

(おかあさん?)

おかあさん、おかあさん、おかあさん。

―――死んじゃったかもしれない。

途端、暗闇の中で心臓が早鐘を打った。
ガンガンと身体中で乱暴に鳴り響く。

バタン!

部屋のドアが開いて、光が差し込む。

「佑香!佑香、お母さんと行こう」

わずかな蛍光灯の光で見えた、顔にアザを作った母親を見る。

「…どこに?」

一体、どこへ。

おかあさんは顔を歪めて、笑った。
無理矢理作ったひどくぎこちない笑顔だ。

「佑香は、お母さんと行くわよね?」

どこへ。

それがどういう意味か分かっていた。
分かりながら、唾を呑み込む。
すぐ返事をしない私を見て、女の目がかっと見開いた。
手が降ってくる。

(ぶたれる…!)

ぎゅっと目を閉じて、世界が真っ暗になる。


いつも、夢はそこで終わる。