「翔太サンってさみしがり屋ですよね」

そう言ったとき、翔太サンは不思議そうに私を見た。
無防備な顔。
でも、どこを見ているんだろう。

(あれ?)

思わぬ沈黙が訪れて、ちょっと焦った。

「いつもかまって欲しそう」

憎まれ口を叩くと、翔太サンは口を尖らせて「何それー」と不満をこぼした。
私は内心ほっとする。
いつもの翔太サンだ。

私たちが会うのはいつも音楽部屋だ。
いつからか、翔太サンはケン兄がいない時間にもうちに来るようになった。

その意味を考えないようにしている。

私たちは、いつもどおりだ。

気まぐれに翔太サンは私の髪に触れる。
時折後ろから抱きすくめられたりもする。

考えないようにしている。

だって、私は何も知らない。

音楽部屋の外―――
学校で授業を受けているとき、
家族といるところ、
バンドでギターを弾いている、翔太サン。

何も知らない。

彼女がいるのかどうか、とか―――

考え出したら、キリがない。

ただ、翔太サンと一緒にいるとほっとする。
肩をくっつけて隣で座ると、ひどく安心してゆるゆると長い息を吐きたくなる。
それでいつも、私は何かに緊張しているんだと思い知る。
翔太サンに出会うまで、気付きもしなかった。

けれど、時々息苦しく感じる時もあった。
アイスグレーの瞳に見つめられると、なぜかいたたまれなくなって目の前から逃げ出したくなる。
絨毯の上の手に骨ばった手が重なる時、
Tシャツの上から鼓動が聞こえる時、
唇が首に押し付けられた時、

手が震える。

(こわい)

誘われたら、きっと寝てしまう。

「ユカちゃん」

目の前に、やさしく笑う年上の男の人。
この人の手に触れられるのは嫌いじゃない。
わかるのは、たったそれだけ。

何が正しくて、何が間違っているんだろう。
私は、今どこにいるんだろう。
どこへ、行こうとしているんだろう。