翔太サンの目の先には私がいる。
けれど、翔太サンは私を見ていない気がした。
遙か、遠く。

(何を見てるの)

アイスグレーの目は、すべて見透かしているようにも逆に何も見ていないようにも見えた。

(どうして)

わからないから、人は触れて確かめる。
当たり前のそんな行為をどうして悲しく感じるんだろう。

再び目を閉じる。

知った手が耳に軽く添えられた。

(ねえ、どうしてあの時私にキスをしたの?)

普通なら、どんな反応をするんだろ。
責めるんだろうか。
好きでもないのにって。

じゃあ、抵抗もしない私は?

唇が触れた。

一瞬で終わった軽いキスのあと、翔太サンはふっと苦笑した。

「乾いているよ、唇」

さらりと翔太サンは言う。

「そうですか?」

いつも通り、起伏のないトーンで私も答えた。

こういうのは何て言うんだろう。

たぶん、私たちのは恋でも愛でもない。
私は知っているんだ。
きっと、私を見つめるアイスグレーの目も。

私たちは穴が空いている。
ぽっかりと空いた空洞。他の人には見えない、うつろな穴。
それをお互い知っている私たちは、互いを利用して穴を埋めようとしている。
ただ、それだけ。

いつの間にかギターをベッドに立てかけて、翔太サンは無言で頭を私の肩に押しつけた。

その時、予感がした。

―――私はきっと、この人と寝るだろう。

それは、
期待でも予測でもない、確信に近い予感だった。