そういえばそんな話題があったことを思い出す。
何せ1ヶ月空いていたんだから、と思う。
さっきはたかが1ヶ月と思っていたくせに。

「大変そうですね」

「うん、ちょっとね」

うかない声の翔太サンは私を見ない。

「バンドやっていたんですね」

「そ。ヒースっていうバンド。来月ライブあるけど、来たい?」

私はじっと翔太サンを見る。
いつもの翔太サンだったら「見においで」と言って半ば強引にチケットとか渡してきそうなのに、その気配がない。

翔太サンはやっと視線に気づいたらしい。
私を見てはっとした顔になる。

「や、ユカちゃんに来てほしくないっていう話じゃないよ」

私の気持ちを勝手に見透かして翔太サンは言い訳をする。

「バンドうまくいっていないんですか?」

私も勝手に翔太サンを見透かして、言う。

「うまく、かあ」

と翔太サンは唸った。

「バンドはうまくいっているんだよ、きっと。ただ、オレがうまくいっていないだけ」

よくわからない言い方。
翔太サンは私を見て、ふっと笑った。
ごめん、と言うわけじゃないけど今にもそう言いそうな苦笑。

「バンドが合っていないってこと。音楽性が違うんだよ。
オレは所詮レンタルギター屋だから」

「レンタルギター屋」

口の中で小さく言ってみる。
変な響きだ。

「オレはギターを弾くだけで、曲には全く関与していないんだ。
ただ弾いているだけ。
まあでもオレ一人じゃライブは出来ないし、ああいう場に慣れるにはいいかなと思って弾いているけど」

ふぅん、と相槌を打つ。

「前に弾いてくれた曲も?」

俯きがちだった翔太サンが弾かれたように顔を上げた。
丸い目。

「あれは、オレの曲」

がりがり、と翔太サンは頭をかく。

―――照れてるんだ。
思わず顔が緩む。
『音楽性が違う』とか『場に慣れる』とか、よくわからない。
それならバンド辞めればいいじゃんって思うけれど、本当は翔太サンのことだからそれだけじゃない気がする。
本当は、友達付き合いとかそういうものじゃないの?

「私は翔太サンの曲好きですよ」

翔太サンは私をちらっと見て、ちょっとだけ笑った。