あれ以来、私たちの間には何もなかった。

ぼんやり窓から外を眺めると、とても綺麗な青空だった。
苦手な英語の授業を真面目に聞いているフリをして、空ばかり見てしまう。
誰かが教科書を朗読する声がBGMにはちょうどいい。

あの日、頬に触れた手を思い出す。
ごつごつと骨ばっている指。
見た目より柔らかい手のひら。
あたたかい、確かな温度。

翔太サンが離れて程なくケン兄が帰ってきた。
だから、私はタイミングを逃してしまった。

(何か、あのとき話したら違ったかな)

何が?

自問する。
たとえケン兄が帰ってこなかったとしても何も変わらなかったのかもしれない。

あの日から、私たちは何も変わっていない。
相変わらず、翔太サンは図々しく秋原家に遊びにくるし、遊びに来たらケン兄と翔太サンと私で他愛ないお喋りをしたりもする。
翔太サンは兄の友人で、私はケン兄の妹だ。
変わらない。

白昼夢でも見ていたのかな。

夢でなかったにしても、翔太サンの気まぐれだったのかもしれない。

たぶん、あれは何かの間違いだった。
たぶん、何かの間違いで、

私たちはキスをした。