(恋とか愛とかねえ)

ぼんやり、天井を眺めてエリカの言葉を思い出す。
昼間エリカに連れ回されたせいで足が棒のようになっている。
制服のままベッドにダイブして、起きる気になれない。

恋愛に興味がないわけじゃない。

でもなあ、と思う。
でもなあ。

周りの男子はいつも子どもっぽく見えてしまう。

それに、本当のところ面倒くさい。
恋とか愛に限らず、感情を揺さぶられるもの全部。
なんて思っている自分がとてもかわいげないのもよく分かっている。

『ガシャン!』

思い出す、けたたましい音。
ああ、嫌だなと思う。

(ああいうのは、嫌だ)

毎日、静かに暮らしていくだけでジュウブン。
私にはそれだけでジュウブンだ。

―――コンコン

ドアをノックされてぱっと起き上がる。

「ユカ?」

ケン兄だ。

「どうぞ」

ケン兄が静かにドアの間から顔を覗かせる。

「この前貸したCDある?」

ああ、と頷いて立ち上がる。
月夜に聴いた、もの悲しい外国のロックバンドの曲が入っているCDだ。
コピーしたものなのだろう。
真っ白なCDに手書きで「Radiohead」と右肩上がりで書かれたケン兄のではない文字。
透明のプラスチックのケースに入ったCDを手渡す。

「ありがとう」

「どういたしまして」

ケン兄は律儀に答える。
ふと、エリカが言った「カッコイイ」がよみがえる。
確かにケン兄はカッコイイ。
はっきりした顔立ちと長いまつげ。物静かな仕草と優しいテノールの声。
きっとモテるんだろうな。

「どうだった?実はまだ聴いていないんだ」

「よかったよ。ちょっと気に入ってipodに入れて聴いてる」

ケン兄の片眉が上がる。
私が首を傾げると、

「じゃあちゃんと聴いてみようかな。これ、翔太がくれたやつなんだよ」

今度は私がびっくりする。

『ふぅん』

私はなぜか、初めて会ったときそう言った翔太サンのあの笑顔を思い出した。