「ひどい」

開口一番、翔太サンはそう言った。
目を逸らし、挨拶もなくスルーしようとした私にずんずん近づいてきて言った言葉だ。

「無視するなんてひどいよ、ユカちゃん」

「いや、でも」ちらりと私は翔太サンの後ろの方で置き去りにされている人を見る。
「知らない人もいるし」

「挨拶くらいしよーよー。無視は良くない、断じて良くない!」

責められると若干後ろめたくなるものの、悪気はナイ。

「それよりどうしたんですか、その頭」

「あ、気づいた?染めたのー。似合う?」

そりゃ目立つ色だから気づくよ、と内心ツッコミを入れる。
黄色みの薄い金色。
自分で染めたのかちょっと色ムラがある。
にこにこしている翔太サンに言うのはなんだか悔しいけれど…

「似合ってます」

でしょー、と自画自賛して翔太サンは上機嫌になった。

私たちのやりとりを見ていたエリカがぽかんと突っ立っていることに気づいて、
こうなると思ったから声をかけなかっただけなんだけど、なんて思った。

「ケン兄の友だち」

はじめましてーと翔太サンは愛想よく挨拶をする。
エリカはやっと状況が飲み込めたらしく、つられて挨拶をした。

置き去りにされた翔太サンの友だちが「おい」と声をかける。

「ああ、ごめん。じゃあユカちゃんまたねー」

颯爽と翔太サンは去っていった。
嵐のようだ。
友だちのところに戻った翔太サンが「ケンイチの妹」と説明している声が聞こえたけど、知らないフリを決め込む。
エリカはきっと私を見た。

「ちょっとー、あんたばっかり何でカッコイイ人と知り合いなの!」

カッコイイ?
あんたばっかり?

「私、そんなにカッコイイ知り合いいないけど」

エリカがぎろりと私を睨む。

「あのねえ、あんたの目は節穴?翔太サンもそのお友達もカッコイイし、ユカの兄ちゃんだって美形じゃない」

いや、翔太サンのお友達は今日初対面だし、ケン兄に至っては身内だし。

「いいなー美形に囲まれた生活。
恋だって愛だって生まれる可能性があるんだよー」

「ナイナイナイ」

胸の前でぱたぱたと左右に手を振ってみるが、エリカは全く聞かず「出会いプリーズ!」とCDを片手に叫んでいた。