ウサギは、すっ、と、俯くチェシャに歩み寄った。
そして彼の目線に合わせるようにしゃがみこみ、声をかける。
「エラはどうしたの?一緒に散歩に出かけただろう?」
と、次の瞬間。
チェシャが俯いたまま、ぽつり、と呟いた。
「…ほら。ウサギだって、“エラ”って呼ぶ…」
(え…?)
すると、チェシャはついに耐えかねたように声をあげた。
「あの子はエラだけど、僕のご主人様じゃないじゃん!本当のエラは僕を置いて行ったりなんかしないもん!あの子は、いずれここを出て行っちゃうんでしょ?…あの子を認めたら、僕のご主人様は永遠に帰って来ない!」
ぽた…
乾いた地面に、チェシャの涙が落ちた。
ぽろぽろと溢れて頬をつたう雫を、ウサギがそっ、と指で拭う。
ぽつり、とチェシャが言葉をこぼした。
「…僕を1番にしてくれないなら…あの子をエラなんて呼べない。…僕、もう1人にはなりたくない…」