ぺこり、とイモムシに頭を下げた私は、シラユキくんとともにキセルの煙を追って歩き出す。
すると、薄暗い森に再びラジオの曲が流れ出した。
遠ざかる歌は、やけに心に響く音だ。
『ここは不思議の森〜♪小さいものが大きくなって〜♪見えないはずのものも見える〜♪』
『…会えないはずの人に会えて〜♪大切な人の夢も見れる〜♪』
ザワザワザワ…!
森の木々が音を立てた。
風に乗って聞こえる歌がかすれていく。
「あっ、エラちゃん、みて!森の出口が見えるよ!」
シラユキくんが、明るく声をあげた。
私たちの行く手に太陽の光が見える。
(煙のおかげで、こんなに早く出口に到着できるなんて…!)
と、その瞬間。
私はふと足を止めた。
立ち止まる私に、シラユキくんはきょとん、として振り向く。
「?エラちゃん?」
私の脳裏には、ローズピンクの瞳の少年がよぎっていた。
(チェシャは、私たちと別れたままだ。きっと、まだ森の外には出ていない。)
イモムシと会っていないとしたら、まだ笛がこの森にあると勘違いしたままかもしれない。
頭の中にイモムシの言葉が響く。
“それにしても、お前たちはよくここまで辿り着けたな。この森は魔法がかけられていて侵入者を拒む。…命を落とす者がいてもおかしくないくらいにな。”