ぐいっ!


「!」


突然、力強く腕を引かれた。

それと同時に、ぼすん!と、誰かに抱きとめられる。


(…っ?!)


緊張がピークに達した瞬間。

私を包む靄が、一瞬で晴れた。


ブワッ!!


ぱらぱらと数えきれないトランプが四方八方に飛んでいく。

ドサ!と、どこかに倒れ込んだ感覚がした時。

頭上から小さな息づかいが聞こえた。


「…ふぅ…」


(…!)


ぱっ!と顔を上げた瞬間。

目の前に見えたのは淡い桜色の瞳。

端正な顔立ちに、どくん、と胸が鳴る。


(男の…人…?)


私を抱きしめる彼は、さらさらとした白い髪。

夢の中の彼と全てが重なって見えた。

私は、一瞬で言葉を失う。

その時。

桜色の瞳の彼が、ふっ、と目を細めて囁いた。


「…今、僕の名前を呼んだでしょ?」


どくん…!


彼の声を聞いた瞬間。

全身がぞくりと震えた。

それは恐怖からではない。

運命を感じたような身震いだった。


ふわり…


彼が、私の頭をゆっくり撫でた。

背中に回された腕が、彼との距離を縮めていく。


「まさか、僕を追いかけて来ちゃったの?イケナイ子だね、アリス。」