チェシャは、そう呟いてサクサク、と草を踏み分けて進んでいく。
「チェシャ…?」
急に黙り込んだ小さく彼の名前を呼ぶと、チェシャはぽつり、と呟く。
「…やっぱり、君はエラじゃないね。」
(え…?)
私が、はっ!とした
その時だった。
ぽぅ…!
微かに、チェシャのローズピンクの瞳が輝いた。
熱を帯びる瞳に、視線が釘付けになる。
「…見て、アリス。」
小声で囁かれ、私はチェシャの指す方角を見ると、そこには真っ暗な森の奥へ伸びる“分かれ道”があった。
どきり、とした瞬間。
チェシャは低く呟く。
「僕は右の道に行く。だから、君はシラユキと左の道に行って。」
(えっ…!)
「チェシャ、1人で大丈夫なの…?」
「平気だよ。笛を探すなら、二手に分かれたほうが効率がいい。」
(確かにそうだけど…)
その時、私たちに追いついて来たシラユキくんにチェシャが声をかけた。
「じゃあ、シラユキ。この子を頼むね。」
「えっ?うん、分かった…!」
状況を掴めないまま、頷いたシラユキくん。
私たちの背中を押して手を振るチェシャは、にこりと微笑みを浮かべたままだ。
(さっき、様子がおかしく見えたのは気のせいだったのかな…?)
私は、言いようのない不安を抱えながら、シラユキくんとともに森を進んだのだった。