一瞬、私の名前を呼ばれたのかと思った。

しかし、彼の表情からそうではないことが伝わってくる。


「“エラ”さんっていう人がいるの?」


チェシャは、私の問いに「うん。」と短く答える。

チェシャと初めて会った、数分前の記憶が蘇る。


“ねぇっ、見て!エラだよ!エラが帰ってきた!まさか、ウサギが連れてきたの?”


(チェシャは、私のことを“エラ”さんだと勘違いしてた。)


「その、エラさんって人に、私は似てるの?」


すると、チェシャが静かに私に答えた。


「うん。…エラのことを1番よく知ってるウサギが魔法をかけたんだもん。そっくりに決まってるよ。」


「!」


少年の口から語られたことに、私は目を見開いた。


(…どういうこと…?)


淀みのようなものが胸に宿る。


「…えっと…その人、今は……?」


好奇心のままに、私は尋ねた。

チェシャは少しの間黙り込み、そしてぽつり、と呟く。


「…いないよ。9年前にジョーカーに捕まって、処刑されちゃったから。」


(え…?)


どくん!と心臓が音を立てた。

その時だった。