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「今日はお散歩日和だね〜。ぽかぽかだよ。」


お昼過ぎ。

私はチェシャと共に不思議の国を歩いていた。

すれ違う人々は皆、どこかの童話で見たような格好をしていて、全てが私の瞳に新鮮に映る。

チェシャは、あちこち指差しては、まるで観光名所を巡るように私に説明してくれた。

歩くたびにゆらゆらと揺れる尻尾が可愛い。


「ねぇ、チェシャ。その尻尾って本物なの?」


「んー?当然でしょっ!…触りたいの?えっち。」


「っ!さ、触らないよっ…!」


くすくす笑うチェシャは、楽しそうにローズピンクの瞳を細めた。

私をからかうところは、ウサギさんにそっくりだ。

チェシャは、ふぅ、と息を吐くと、ため息混じりに言葉を続けた。


「僕、尻尾触られるの弱いんだよね。だから、アリスも触っちゃだーめ。僕の尻尾を触るのはご主人様にしか許してないから。」


(…!)


その言葉に、はっ!とする。

私は、何気なく彼に尋ねた。


「ご主人様って、ウサギさんのこと?」


すると、チェシャは急に顔を曇らせてぼそり、と呟く。


「ううん。ウサギはただの友達。…僕のご主人様は、“エラ”だから。」


(え…?)