私より少し背の低い彼は、ぱっちりとした猫目で私を見上げた。
“ネコミミ”のついたフードを被る彼は、名前の通り“猫”らしい。
(か、可愛い子だな…。私より年下みたい。)
つい、彼に見惚れていると、ウサギさんは少年に近寄って頭を撫でる。
「チェシャ。アリスのことは、みんなの前では“エラ”と呼ぶんだ。今、エラはこの子なんだから。」
「…!」
少年はわずかにまつげを伏せると、無言でこくりと頷いた。
しゅるる、と彼の尻尾がウサギさんに触れる。
「あの…」
そっ、と声をかけると、ウサギさんに撫でられていた彼が、ふいっ、とこちらを見た。
私は、おずおずと言葉を続ける。
「勝手に家に上がってごめんなさい。…私はアリス。訳あって、ウサギさんに拾われてここに住まわせてもらってるの。」
すると、少年は警戒心を解いたように私にすっ、と近づいた。
ローズピンクの瞳が、じぃっ、と私を見上げる。
「…僕は“チェシャ猫”。チェシャって呼んで。」
初めてにこりと笑った無邪気なチェシャに、ついつられて笑いかえす。
と、その時。
ウサギさんが「そうだ!」と声を上げた。
「親睦を深めるためにも、2人で外を散歩してきたらどうだい?アリスはまだこの国をあまり知らないし。」
(え…!)
ウサギさんの提案に目を見開くと、チェシャはすんなりと頷く。
「ふーん、楽しそうだね。」
「いいの…?」
「いーよ!君のためなら。」
(…警戒心を解いてくれたって事でいいのかな…?)
チェシャは先程までの表情とは一変した笑顔で私にそう答えたのだった。