「“チェシャ”、帰ったのかい?」
「「!!」」
ふいに聞こえた声に、はっ!とする。
扉を開けてこちらを見ているのは、きょとん、と平和な顔をしたウサギさんだった。
すると、“チェシャ”と呼ばれた私の目の前の少年が、ぱぁっ!と顔を輝かせて口を開く。
「ねぇっ、見て!エラだよ!エラが帰ってきた!まさか、ウサギが連れてきたの?」
(え…?)
どきり、と胸がなった時。
静かに近づいてきたウサギさんは、床に落ちた短剣を拾い上げて答えた。
「違うよ、チェシャ。この子はアリス。僕がシンデレラの魔法を授けた少女さ。」
「え…っ!」
少年は、ウサギさんの言葉に目を見開いた。
そして、まじまじと私を見つめる。
「………エラじゃ…ない……」
ぽつり、と聞こえた少年の声は、どこが寂しげで震えていた。
ふっ、と光を失ったローズピンクの瞳が、わずかに細められる。
すると、状況を掴めていない私の心中を察したようなウサギさんが、私に向かって口を開いた。
「アリス。彼が前に話した僕の“同居人”だよ。」
(“同居人”…?この男の子が…?)