そんなはずはない。
私の前を颯爽と歩いていた彼が、さっきまでここにいたはずだ。
「えっ…?ど、どういうこと?どうなってるの…?」
独り言が薄暗い路地に響く。
何度見回しても、他に道などない。
(消えた…?嘘でしょう?そんなことあるわけ…)
と、その時。
私の足元の壁に“あるもの”が見えた。
「…?」
それは、金色の小さなドアノブだった。
しゃがみこんでよく見てみれば、蔦の絡まったレンガの壁に、うっすらと切り込みが入っている。
蔦の葉に隠れるようにして、“レンガ1個分ほどの小さな扉”があるようだ。
(…この扉を通ったの…?そんなまさか。子どもでさえ通れない大きさなのに。)
私は、まじまじとその扉を見つめる。
これは、なにかのイタズラなんだろうか?
しかし、精巧に作られたその扉はちゃんとドアノブが回せるらしい。
まるで、開けられるのを待っているかのようだ。
(…入れなくても、壁の向こうを覗くくらいならできるかも…)
すっ…
ドアノブに手を伸ばすと、緊張感が高まる。
カチャ…!
小さく音を立てた金色のドアノブが、ゆっくりと回った。
と、次の瞬間だった。