「…ん…」
太陽の光。
ドアを叩くお母さんの声で目覚めないのは久しぶりだ。
アラームの代わりに、窓の外から小鳥のさえずりが聞こえる。
むくり…
ゆっくりと体を起こすと、見慣れない天井が目に入った。
(…そうだ。私、結局ウサギさんの家にお世話になることになったんだ。)
ふと視線をあげると、姿見に自分が映る。
髪はさらさらの銀髪で、瞳は澄んだ空色だ。
やはり、日が昇るとエラに戻るらしい。
私は小さく息を吐くと、近くに畳んであったブランケットを羽織り、静かに部屋を出た。
…ギシ、ギシ…
階段を降りると、リビングのテーブルの上に1人分の朝食が置いてあることに気づく。
“おはよう、アリス。
朝食を作っておいたよ。
僕は所用で出かけるから、少しの間留守番を頼むね。”
万年筆で書かれた綺麗な字。
これは、どうやらウサギさんが残したメモのようだ。
デザートのリンゴは、ご丁寧に“うさぎさん”になっている。
(器用なんだな…あの人。ご飯も作れるなんて…)