「アリス…っ!!」
「!!」
この世界で、私をそう呼ぶのは1人しかいない。
声のした方を、ばっ!と向く。
すると、白いふわふわした髪の毛に葉っぱをつけた白シャツの青年がこちらへ手を振っていた。
「やーっと見つけた!探したよ…!魔力が完全に切れる前に気配を追ってこれてよかった。…あー、もう、こんなに濡れちゃって…。水遊び?」
「違うよ!訳あって湖に落ちちゃったのっ…!」
こちらに駆け寄るウサギさんは、私を見てほっ、とした顔をした。
しかし、やがて何かに気がついて目を見開いた。
「…アリス。その手に持っているのは?」
「?」
彼に言われて手元に視線を落とすと、そこには“純金のリコーダー”。
(…!これ、さっき湖の女神からもらったやつ…!)
普通の笛はオズの元に置いてきたが、こちらは彼女に渡されるがまま持ってきてしまったらしい。
すると、ウサギさんは私から笛を受け取り、目を輝かせて呟いた。
「競り落とした笛を取り返しに行ったと思ったら…。すごいね、アリス!君は実は“わらしべ長者”なの?」
「違いますッ!!」
これを得るまでには色々あって…、と説明しようとしたその時。
彼は私の手を握って声をかけた。
「…とにかく、話は後でゆっくり聞くとして…。ひとまず、場所を変えようか。」
「えっ?」
顔を上げると、彼はにこり、と笑って続ける。
「人間の姿でここをうろつくのは危険だからね。今から、僕の家に招待するよ。」