「…か、帰らなきゃ…っ!」


「は…っ?!」


エメラルド色の瞳の彼が、はっ、と目を見開いた。

私は彼の話を遮り、湖の岸に向かって走り出す。


「っ?!おい、ちょっと待……」


バシャン!


背後で、私を追う彼が水底に足を取られ水面にダイブした音が聞こえたが、私はもうそれどころではない。


(まずい…っ!魔法が解ける…!!)


ぐっしょりと濡れたドレスが重い。

裾の色が薄くなり、だんだん元の服へと戻ってきている。

どくん、と胸が鈍い音を立てた瞬間。

背後からオズと呼ばれた彼の声が聞こえた。


「おいっ…!な、名前くらい教えろ!」


(!!)


私は、とっさに彼に答える。


「私はっ、“ア”………」


“アリス”、と言いかけて、はた、と止まる。

ウサギさんの声が脳裏に響いた。


“その姿でいるときは“エラ”と名乗るといい。僕以外と話すときは、本名を明かしてはいけないよ?”


「…私の名前は…っ、“エラ”…!」


「!」


ガサガサガサッ…!


私は、ほぼ“言い逃げ”のような形で森へと入った。

彼らの顔すらまともに見ずに。


「はぁっ、はぁっ…!」


枝や葉を潜り抜け、鬱蒼とした森を突き抜けていた

その時だった。