どうやら、彼女はこの湖の主のようだ。

ドキドキしながら彼女を見つめていると、彼女は私たちを見つめたまま静かに口を開いた。


『…正直者の人は、助けてあげるわ。貴方達が“泉に落としたもの”も、ちゃんと拾っておいたわよ。』


(…!まさか、この女の人…!)


脳裏にある童話がよぎったところで、彼女は私たちに向かって“予想通り”の質問を投げかけた。


『貴方達が落としたのは、この“金の笛”かしら?…それとも、この“普通の”………』


「「“普通の笛”です!!!!」」


『…えっ?』


彼女は戸惑ったように眉を寄せた。

人の泉を荒らしておいてまずは謝るべきなのだろうが、笛が無事であることを早く確認したい。

エメラルドの瞳の彼も、焦ったように女性を見つめている。


『…わ、分かったわ…!正直者には、この“金の笛”を…』


「…っ!いいです、いいです!“普通の笛”でいいですからっ!!」


私が声をあげた、その時。

複雑な表情をした泉の女神は、両方の笛を私に手渡した。


(…!!戻って、きた…!帰り道への手がかりが…!!)


すぅ…っ、と消えていく泉の女神。

肩の力が抜ける私。

受け取った笛をまじまじと見つめる。


(よかった…、傷はついてないみたい…)


私が、ほっ、と息をついた

その時だった。


「…なぁ。」


ふいに、私を抱きとめる彼が口を開いた。

?、と彼を見上げると、彼は予想外の言葉を口にする。


「その笛、一瞬だけ俺に貸してくれないか。」