私は、橋の欄干に足を掛け、ぐっ!と腕を伸ばした。
しかし、笛は私の手をすり抜けて崖下へと落ちていく。
(!ダメ…っ!!)
ずるっ!!
その時。
橋に突っ張っていた足底が、勢いよく滑った。
欄干から体が乗り出す。
「わっ?!!」
視界に映るのは、底の見えない谷。
次の瞬間。
落ち行く私に、ばっ!と手が差し伸べられた。
「っ、掴まれ!」
私を見つめるエメラルドの瞳。
彼の動きがやけにスローモーションに見える。
2人の指が、触れる。
───が。
運命の女神は私に微笑まなかった。
バキ!!
「「?!」」
谷にかけられていた吊り橋に、嫌な音が響いた。
劣化していた橋が、重さに耐えきれず底抜ける。
「マジかよ…?!」
青年が小さく呟いた瞬間。
私と彼の体は重力に引っ張られ、笛とともに真っ暗な谷へと落ちていった。
ヒュオオォォッ!!
痛いほどの風が全身を包む。
まるで不思議の国に来た時のように。
「…っ!」
ぐいっ!!
空中で、彼が私の体を抱き止めた。
2人の影はそのまま落ちていく。
(人間界に帰るどこじゃない!このままじゃ、2人とも“あの世行き”だ…っ!)