ばさり…!


軽やかに壁から降り立った彼は、優しく私を地面に下ろした。

すっ、と私から離れる彼。


(私を…助けてくれた…?)


隣を見上げるが、彼の視線は、まっすぐ笛を奪った男へと向けられている。

彼は、犯人に向かって口を開いた。


「…あんたの“あくどい所業”は調べがついてる。あんたはこれまでのオークションでも、自分の出品した宝の落札金を受け取った後に、競り落とした客から宝を盗み取って、利益だけを得ていただろう。」


(…っ!それって立派な詐欺だよね…!)


その言葉に、犯人の男は開き直ったかのようにニヤリと笑う。


「…それがどうした…!あの闇市はもともと非合法だ。騙される方が悪いのさ…っ!」


「「…!」」


(最低…っ!)


奴を睨むが、反論はできない。

ぐっ、と手のひらを握りしめ、男が手に持っている笛を悔しげに見つめる。

私の隣に立つ彼も様子を伺っているようで動かない。

と、その時だった。


…プルルッ!プルルッ!


犯人の男の外套から、電話のコール音がした。

男は私たちを警戒しながら電話を耳に当てる。


「…あぁ、お前か。計画通り、客から笛を盗み取ったぞ。そっちはどうだ?」


どうやら、犯行グループの仲間からの連絡のようだ。

犯人の男は、満足げに結果を報告している。


(…悔しい…っ!結局、取り返せないなんて…!)


暗い気持ちが胸にこみ上げる。

命の危機を見知らぬ男の子に助けてもらったとはいえ、家に帰るための手がかりを失ってしまったことに変わりはない。

人間界への帰還が絶望的に思えた

その時だった。


「…な、何だって…?!!!」


犯人の男が、目を見開いて叫んだ。


「受け取った金が、全部“ニセモノ”?!!」


(っ!!あ…っ!)