と、その時。
男が急に横道へそれた。
(!)
犯人を追って左手にのびる道へ視線を向けると、男は自転車では立ち入れない道の壁をよじ登っている。
(…っ!意地でも逃げるつもりなのね…!そう簡単に逃すもんか…っ!)
そっちがその気なら仕方がない。
もちろん、笛を取り返したいというのが1番だが、全力で奴を捕まえたくなった。
ガシャン!
自転車を降り、私は男のよじ登る壁へと一直線に駆け出した。
レンガの窪みに足をかけ、蔦を利用しながら奴を追う。
(ここまで来たら諦めるわけにはいかない…。何としてでも、私は人間界に帰らなきゃいけないんだから…!!)
ガッ!
壁の頂上へ手をかけた。
ぐっ!と腕に力を入れて体を上げる。
すると壁の向こうには、森と切り立った崖が見え、そこに木でできた大きな吊り橋が架かっていた。
「…っ、しつこい女だな…っ!」
橋の上に立つ男が、私を見て苛立たしげに呟く。
私はそんな奴に向かって壁の上から叫んだ。
「しつこくて当たり前でしょ!私の笛を返してドロボーっ!!」