私は、ポケットの中の笛へ視線を落とす。
どうやらこの笛は、“問いを口にしてから笛を吹く”と、知りたい真実を教えてくれる仕組みらしい。
ここには、オークションが終わったとはいえ、不思議の国の住人がたくさんいる。
(…地上に出て、人気(ひとけ)のない場所で笛を吹いた方がいいよね。)
ぐるぐると考え込みながら歩いていると、トン!と、前から歩いてきた誰かに肩がぶつかった。
「っと、すみません…!」
「…いえ。」
軽く謝り、私はすたすたと足を進める。
頭の中は、笛のことでいっぱいだ。
(…とりあえず、早く人間界に帰らなきゃ。もう、ウサギさんに振り回されてばかりじゃ身がもたない…!)
すると、その時。
わずかにまつげを伏せたウサギさんが口を開いた。
「ねぇ、アリス。」
「…今度は何?また魔法で詐欺を働くつもり?」
「違う違う。ひとつ言っていいかな?」
(?)
眉を寄せて彼を睨むように見上げた瞬間。
ウサギさんは思いもよらない一言を言い放った。
「アリス。今、笛を“スられた”よ。」
「えっ?!?!?!!」
ばっ!
急いでコートのポケットへ視線を落とす。
すると、さっき偽の大金で競り落としたはずの笛が忽然と消えていた。
(う、嘘っ?!本当に無いっ!全然気が付かなかった!)
背後を振り向くと、私達が異変に気がついたことを察した“犯人”が走りだす。
私は、反射的に体が動いていた。
「逃すかあっ!!!」
「っ!アリス、待っ………」
私は、ウサギさんの制止を振り切り、笛を奪って行った男を追いかける。
もう、笛への欲以外、私を動かすものはなかった。