「あの人、誰なんだろう…。」
カレンダーの日付は3月24日。
今日は、高校2年の春休みの初日だ。
春の陽気に包まれ散歩をしながら、ぼんやりと夢のことばかり考えている。
「ねぇ。私、お兄ちゃんがいたりとかしないよね?」
今朝、お母さんにぽつり、とそう尋ねると、「寝すぎて頭までおかしくなったの?ちゃんとこっちの世界に戻って来なさい。」とバッサリ切り捨てられた。
(そうだよね。さすがに、生き別れのお兄ちゃんが現れるわけない。)
その時。
ふと、視界に駅前の図書館が映った。
市役所と併設されているその図書館は、あまり栄えていない地元にあるにしては大きく、老若男女が出入りしている。
(…そういえば、小さい頃はよくここに来てたなあ。今じゃ、本を読みにわざわざ来ることはなくなったけど…)
と、次の瞬間だった。
図書館のキラキラとしたガラスの向こうに、1人の青年が見えた。
白いシャツを着こなし、茶色い本に目を通している。
その佇まいだけで絵になるような彼に、私は、はた、と立ち止まった。
『久しぶりだね、アリス。僕のこと忘れちゃった?』
ふいに、頭に夢の中の声が響く。
ガラス越しに見える彼の髪は、20代前半のその見た目にしては目立つ、雪のような白色だ。
「…っ!あの人…っ!!」