(この“黒ウサギ”…!)


ギン!と彼へ軽蔑と恨みの視線を向けるが、彼はそんなのお構い無しだ。

するとその時。

私たちの予想していなかった声が会場に響き渡った。


「───110万。」


低く凛とした声に、会場中がしぃん、と静まり返る。


(う、嘘…!ウサギさんを超えてきた…?!)


私は、ばっ!と声の主を探す。

すると、ステージを挟んだ真向かいに“13”の番号札を掲げた人が見えた。

その人は茶色い外套を身にまとい、フードを目深に被っている。

声からして若い男の人のようだ。


「ありゃ…、あの人も笛を狙っているみたいだねえ。」


ウサギさんが悠長にぼそり、と呟いた。

会場の他の人々は、誰も札をあげる気配はない。

皆、100万を超えた衝撃に奥手になっているようだ。

燕尾服の支配人が、私たちと外套の彼を交互に見つめて口を開く。


『110万です…!さぁ、このまま13番の方が落札されるのでしょうか…!』


(!!)


その言葉を聞いた瞬間。

私は無意識にウサギさんの持っていた番号札を奪い取っていた。


「ひゃ、120万!!」