私は、焦って隣に声をかけた。


「ウサギさんっ!私たちもはやく入札しないと…っ!」


「だいじょーぶ、だいじょーぶ。」


呑気にニコニコといつもの微笑みを浮かべる彼に、私はじれったさを感じて眉を寄せる。


(こ…この人、本当に落札する気があるの?まさか、私をからかって楽しんでいるだけなんじゃあ…)


するとその時。

おじいさんの声が会場に響いた。


「70万!」


ざわっ…!


会場が一瞬ざわめいた。

今夜の最高金額に、皆が驚きを隠せないようだ。


(70万…?!大金すぎてイメージすら湧かないよ…!)


得体の知れない不安感が胸にこみ上げた。


(まずい…!このままじゃ、本当にあのおじいさんに落札されちゃう…!)


私はつい、ふっ、と顔を伏せる。

…と、その時。

いままで微笑みを保っているだけだった“彼”が動いた。


…すっ。


132の番号札が掲げられる。


(…!)


会場中の視線が彼に集まった瞬間。

ウサギさんは笑みを浮かべたまま、さらり、と言い放った。


「100万。」