ザァァ…!
澄んだ風が頬を撫でる。
ウサギさんの桜色の瞳が静かに光った。
「…そろそろお別れの時間だね。」
彼の言葉に、どくん、と胸が鳴る。
この国に来てからの記憶が、どっ!と頭の中に流れ込んだ。
ひどく現実味のない出来事ばかりで、全てが夢であるかのような気がする。
「…エラ…」
ぽつり、とチェシャが名を呼んだ。
その瞳には、ローズピンクの涙が溢れている。
「…エラ、じゃないんだよね。アリスなんだよね。」
震えた声でそう言った彼は、ばっ!と私に抱きついた。
その瞬間。
チェシャは堪えていたものが我慢しきれなくなったように、ぽろぽろと泣き出す。
そんな彼を見ていると、私の胸にも熱いものが込み上げた。
頬をピンクに染めたチェシャは、わーん!と声を上げる。
「…僕も、シオリビトになる…!絶対なるー…!!」
(…っ!)
思わず彼を抱きしめて優しく撫でると、苦笑したウサギさんが、「チェシャはもうちょっと大きくなってからね」と彼をなだめた。