目を見開くと、オズは信じられない言葉を放つ。


「トレメインにあんたの正体を密告したのは…、このウサギだ。」


(!)


「この男は、最初からアリスを裏切るつもりだったんだよ。」


どくん…!


心臓が鈍く音を立てる。

まるで、冷水を浴びせられたかのように体が冷たくなった。

なぜ、トレメインが私が人間であることに確信を持っていたのか。

なぜ、私が笛を求めて広場に誘き寄せられると知っていたのか。

その瞬間、全ての疑問が解ける。

もし、広場でオズが私を庇ってくれていなかったら、私は笛に正体を暴かれ、その場で処刑されていた。

ウサギさんがトレメインに密告していたのが本当なら、彼は私を見殺しにしたことになる。


「嘘、だよね…?ウサギさん……」


私の問いに、ウサギさんは桜色の瞳をわずかに細めた。

しぃん、と辺りが静まりかえる。


「…何で否定しないの…?」


ウサギさんは、震える私の声に静かに答えた。


「それが“真実”だからさ。…僕は、トレメインに君を売ったんだ。」


(…!)


ガツン!と、鈍器で頭を殴られた気がした。

味方であったはずの彼の姿が、頭の中で崩れ去っていく。


「…ウサギ…」


チェシャが苦しそうに呟いた。

ウサギさんは、何一つ表情を変えない。

オズが私に向かって口を開く。


「アリス。もう、この男を信用するな。こいつの“策”に乗ったら、今度はどうなるかわからないぞ。」