私は、戸惑いながら彼に答える。
「た、確かに、私の本名はオズの探す彼女と同じ名前だけど…!昔の記憶は何も覚えてないの…!もちろん、オズと出会ったことはひとつも…」
私の言葉にショックを受けるかと思ったが、オズは分かっていたようにさらりと口を開く。
「ウサギに魔法をかけられたんだろ。…人間がシオリビトと接触した記憶なんて残っていたら、大問題だからな。」
そのセリフに、エラさんの姿がよぎった。
人間界で出会った男の人と恋に落ち、処刑されてしまったシオリビト。
ウサギさんが私の記憶を消した理由も納得がいく。
「…オズ。」
私は彼の名を呼び、そして意を決してその問いを投げかけた。
「オズは、本当に“人間”なの…?」
すると、彼は数秒黙り込んだ。
静かに答えを待っていると、オズはゆっくりと語り出す。
「あぁ。そうだよ。」
はっ、と目を見開いた。
オズは、小さく続ける。
「俺の本当の名前は“櫻井 優(さくらい ゆう)”。
あんたと同じ、正真正銘の“人間”だ。」