私は、何も言えなかった。

人間界へ行ったことがあるどころか、そこの住人だとも。

もしかして、オズの初恋の相手は

…“私”なんじゃないか、とも。

そんな都合のいい話、口に出せるはずがない。


「…だよ、な…。」


ドサ、とソファの背もたれに体を預けたオズ。


「…本当に、知らないんだな?」


「…うん。」


「そうか…。」


彼は、何を考えているのか悟らせない表情でため息をついた。

再び、部屋が沈黙に包まれる。

お互い、聞きたいことはあるはずなのに、色々な思考に邪魔をされ、核心を突く問いは口に出せないようだった。

オズが、ぽつり、と呟く。


「…なぁ。」


呼びかけに、ふいっ、と彼の方を向いた。

するとオズは何か言いたいことをぐっ、とのみ込むように眉を寄せ、静かに言葉を続ける。


「…じゃあ、もし、アリスに会ったら伝えておいてくれないか。」


「…?」


オズは、ふっ、と視線をこちらに向けた。

エメラルドの瞳に、“エラの姿”の私が映る。


「俺は、今もずっと、あんたのことが好きだから。」


(…!)


「…たとえ、俺のことを覚えてなくても、何か言えないことがあっても。…それでもいい、って。」