皮肉なものだ。
童話の世界に生きる“アリス”が、オズの初恋の相手だったなんて。
…オズの探す“アリス”は、私ではない。
(私と同じ名前の人を、好きになることないのに…)
ふいに、涙が出そうになった。
溢れそうになる感情を、必死で堪える。
前に彼女のことを聞いたときは、恋バナをしてる気分になって、すごく楽しくてワクワクしてた。
だけど、今は少し違う。
オズがずっと追いかけ続けている“初恋の人”のことを聞くたびに、胸が痛い。
ちくりと痛みを感じるたびに、黒い感情が湧き上がる。
(このまま、オズの彼女が見つからなければいいのに)
そんな感情まで抱いていることを自覚し、自分自身が嫌になる。
こんな悪い自分を、私は知らない。
もし、彼女が見つかったら、オズは全てを捨ててでも彼女の元へ行ってしまう。
私は、それが“怖い”んだ。
オズは、何かを試すように言葉を続けた。
「アリスのこと…何か知ってるか…?」
しぃん、と部屋が静まり返った。
カチ…、コチ…、と、時計の針が時間を刻む音しか聞こえない。
数秒後、私の声が部屋に響いた。
「…ごめん。…何も、知らない。」