「さ、着いたよ。」
ウサギさんに連れられ歩くこと数時間。
そこはいかにも怪しそうな雰囲気の漂う夜の街だった。
淡い洋灯の光がぽつぽつと路地を照らし、ウサギさんの視線の先には、廃ビルの地下へと伸びる階段がある。
私は少し恐怖を感じたが、それ以上に好奇心に駆られてワクワクし始めていた。
(ちょっとドキドキするなあ。…本当に、ここでオークションが行われるの…?)
その時。
ウサギさんがばさり、と茶色のロングコートのフードを被った。
きょとん、として見上げると、彼は爽やかに笑って口を開く。
「念の為、顔を隠そうと思ってね。国家公務員のシオリビトが闇市に出入りしてるのがバレると、ちょっと厄介でさ。」
(…この人、本当に“いい人”なのかな…)
私は、悪びれもせず“早く行きたい”とそわそわしている様子の彼にため息をついた。
彼は、フードを目深に被ってニヤリと笑う。
「ん、よし!…じゃあ行こっか、アリス。」
…コツ…
薄暗い地下へと続く階段に2人の足音が響く。
地上から遠ざかるたびに、だんだん、自分が自分でなくなるような、そんな感じがしていた。