その時、頭に昨日の記憶がよぎった。

黒いドレスを着こなした色気のある女性が目に浮かぶ。


「トレメインさん、って、もしかして薔薇色の瞳の女の人のこと?」


すると、チェシャは、はっ!と目を見開いて低く言った。


「…エラ、あの女に会ったの?」


「えっ?…う、うん。2人を見かけただけだけど…」


紳士的なチェシャが女性を“あの女”呼ばわりするなんて、今まで聞いたことがない。

保護者であるウサギさんを取られた気がして、気に入らないだけなのだろうか。

私は、そんな彼に何気なく尋ねる。


「トレメインさんって、ウサギさんの彼女なの?」


…と、その瞬間だった。


「何言ってんの?!そんなわけないじゃん!絶対、それだけはあり得ない!」


(…!)


急に声を荒げるチェシャ。

驚いた私をみて、はっ!とした彼は、気まずそうにふいっ、と、視線を逸らす。


(…彼女じゃない…?キスまでしてたのに…?)


ウサギさんの情報を探ってはいるが、知れば知るほど謎が深まるばかりだ。