その時。
伯爵の体が、ぐらり、と揺らいだ。
魔力の効果が強まってきたらしい。
「…そいつは、薄い茶色のコートを羽織ってい
た。…妙に掴めない“男”で、確か、女を連れていた…」
そして、伯爵の瞳が閉じる間際。
聞き逃すほどの声で、“ある名前”が口にされた。
「たしか、その男の名は……
───“ウサギ”。」
(!!)
ドサ…ッ!
伯爵の体が芝生に倒れた。
しぃん、と静まり返るガーデン。
俺は動揺を隠せずに、ただ、その場に立ち尽くしていた。
(…“ウサギ”…?あいつが、笛を手に入れたっていうのか…?)
この世界にいる“ウサギ”という名の男を、俺はあいつしか知らない。
あの男が、今夜のパーティに来ていたというのか。